目次
- はじめに――カフェから歴史を読み解く
- 身近な空間としてのカフェ
- カフェを構成する要素
- カフェの始まりをどこに置くか
- ロンドンのコーヒーハウス
- 「モノから見る世界史」という方法
- グローバル・ヒストリーとしてカフェを見る
- 国民国家の枠組みを越えて歴史を考える
- 第1章 ヨーロッパに喫茶文化がやってきた
- 第2章 革命前夜のカフェと喫茶習慣
- 第3章 万博と美術館とカフェ
- 第4章 激動の20世紀前半とカフェタイム
- 第5章 多様化する20世紀後半のコーヒーライフ
- 第6章 グローバルとローカル、カフェはいつもそこに
- あとがき
- 参考文献
要約
『カフェの世界史』は、カフェという身近な空間を入口として、世界史を横断的に読み解こうとする本である。
現代のカフェは、一人でコーヒーを飲む、友人と話す、本を読む、仕事や勉強をする、食事をするといった多様な用途で利用されている。その形態も個人店からさまざまな営業形態まで幅広く、店ごとに飲み物、菓子、インテリア、食器、コンセプトなどが異なる。
著者は、こうしたカフェを歴史的に分析するため、本書では主に次の要素からカフェを捉える。
- コーヒーとお茶
- お菓子
- 場所とインテリア
- それらを取り巻く歴史的背景や経営方針
- カフェを利用する人々とそのネットワーク
つまり、飲食物そのものだけでなく、「誰が、どこで、どのように利用したのか」まで含めてカフェの歴史を考える。
カフェの始まり――ロンドンのコーヒーハウス
コーヒー、茶、チョコレートそのものは、ロンドンのコーヒーハウス以前からヨーロッパに伝わっていた。しかし当初、それらを楽しめたのは主として特権階級だった。
本書では、一般の人々が日常的に喫茶を楽しめるようになり、その場所からビジネス、学問、政治活動などが生まれたことを重視し、ロンドンのコーヒーハウスを「カフェの始まり」と位置づける。
したがって本書におけるカフェとは、単にコーヒーを提供する店ではない。人々が集まり、情報を交換し、人間関係や経済活動、文化、政治が生まれる社会的空間でもある。
「モノ」から世界史を見る
本書の方法は、砂糖、茶、コーヒー、チョコレートなど一つの「モノ」を手がかりに、地域や時代を横断して歴史を見る研究の流れにつながっている。
従来の歴史学習では、国家、人名、事件、年代などを中心に歴史を捉えがちである。しかし、たとえば砂糖という一つの商品を追跡するだけでも、生産地、貿易、消費社会、植民地、労働、文化など、離れた地域の歴史が相互につながって見えてくる。
同様に本書では、カフェと、それを構成する飲み物や菓子、人々の交流を手がかりとして、世界各地の歴史を横断していく。
国民国家を越えた歴史
本書は、特定の国家を単位として歴史を見ることだけを目的としていない。
著者が重視するのは、
モノの移動 → 人の移動 → 情報や文化の交流 → 人々のネットワーク
というつながりである。
現在のような国民国家が本格的に形成されたのは主として19世紀以降であり、それ以前から商品や人、文化は国境を越えて移動していた。また国家の境界自体も歴史の中で変化している。
そのため、最初から現在の国境を前提として歴史を見るだけでは、カフェや喫茶文化が世界各地を結んできた実態を十分に説明できない。
本書の狙い
本書が扱うテーマは世界史という大きなものだが、その入口はあくまで日常的なカフェである。
普段何気なく飲んでいるコーヒーや茶、食べている菓子、訪れているカフェについて、
- どこから伝わったのか
- なぜその地域で飲まれるようになったのか
- どのような社会の中で普及したのか
- カフェに集まった人々が何をしていたのか
- カフェからどのような文化や政治、経済活動が生まれたのか
を追跡することで、日常生活と世界史を結びつける。
本書はまず、もともと各地域で生産・消費されていた茶やコーヒーが、どのようにヨーロッパへ伝わり、大規模な需要を生み出していったのかというところから、その歴史をたどっていく。
要するに本書は、カフェを「飲食店」としてではなく、商品・文化・人・情報が交差する場所として捉え、その変化を追うことで近代以降の世界史を描こうとする本である。