2026-10-04

本書は、子どもの「言い間違い」や不思議な発言を手がかりに、言葉の仕組みや人間の認知を考える本である。

前書きでは、「トウモロコシ」をうまく言えないといった典型的な言い間違いだけでなく、「お菓子がない」を「お菓子あない」と表現した子どもの例が紹介される。これは単なる間違いではなく、子どもが「動詞+ない」という日本語の規則を自分なりに発見し、「ある」にも同じ規則を適用した結果だと考えられる。つまり、子どもは限られた言語経験から規則を推論しており、その誤りの中に日本語の例外や構造が露出している。

著者はそこから、

子どもの言い間違いには、言葉の本質が詰まっている

と考え、インターネット上で子どもの発言を募集した。1000件を超える投稿の中から特に興味深い約80例を選び、言語学的な短い解説を加えている。内容はおおむね子どもの年齢順に、1歳児から小学生まで並べられている。

あとがきでは、本書で扱った発言から、「行く/来る」のような視点によって変化する表現、日本語の語順や音の仕組み、さらには表題にもなった「ゴリラを植えたよ」のような発言を通して、記憶など言語以外の認知メカニズムまで見えてくる可能性が語られる。

また、本書の素材は著者が活動する「ゆる言語学ラジオ」の視聴者から集められたものである。著者は、研究成果を一般向けに紹介するだけでは「研究へのフリーライド」になってしまうのではないかという問題意識を持っていた。しかし、集まった子どもの発言データを今井むつみ氏ら研究者に提供したところ、言語科学・認知科学・小児看護学などでも価値のある資料として利用されるようになった。そこで著者は、一般の人から集めた観察データを研究者へ還元することも、アカデミアへの一つの貢献になりうると考えるようになる。

最後に著者は、「言い間違い」という呼び方そのものを問い直す。大人の言葉を唯一の正解とすれば、子どもの独創的な比喩や論理的な推論まで「間違い」として処理されてしまう。しかし、そうした発言こそ、子どもが短期間で言語を習得していく推論力・創造力・観察力の表れでもある。

そのため、子どもの妙な発言をすぐ訂正するのではなく、観察し、記録し、味わってみることが勧められる。大人にとっても、それは普段無意識に使っている日本語の不思議さや複雑さを改めて発見する機会になる。

本書全体の主題は、子どもの発言を「未熟な間違い」として見るのではなく、言語の規則を自力で発見しようとする知性の痕跡として読み解くことにある。

こちらで訂正。

お菓子あんない、おもちゃあんないですね。

了解です。訂正箇所は、

  • 「お菓子あんない」
  • 「おもちゃあんない」

ですね。

「ある」+「ない」→「あんない」と子どもが規則的に組み立てた、という例です。先ほどの要約もこの表現に読み替えてください。