2026-10-07
この本の冒頭と終盤を踏まえると、長友佑都が語る「メンタルモンスター」とは、もともと強靭な精神を持つ人ではなく、自分を前向きな状態へ持っていくための技術や準備を積み重ね、逆境すら成長の力へ変えていける人だとまとめられる。
冒頭で長友は、自分のサッカー人生には常に批判があったと振り返る。しかし批判を単なる敵とは見なさず、むしろ自分を成長させる「ガソリン」として利用してきたという。苦しいときに自然とポジティブになれるわけではなく、あえて前向きな言葉を口にし、「これは成長のために必要なことだ」「自分にはできる」と脳に刷り込ませることで、自分自身をポジティブな方向へ導いていく。こうした自己コントロールを繰り返した結果、重要な場面では自分でも驚くほどの力を発揮できる「メンタルモンスター」の状態に入れるようになった。
そして本書を貫くもう一つの重要な比喩が、**「光」**である。長友自身、ワールドカップ出場や「世界一のサイドバックになる」という夢を光として追いかけてきた。一方で、自分自身も努力によって大きな光となり、家族、サポーター、子供たちなど、自分を支えてくれる人々や未来を担う人々を照らしたいと考えている。誰にでも光るものはあり、それをどこまで磨き続けられるかが重要だというのが、本書冒頭で示されるメッセージである。
終盤では、この「光」という考え方が、長友自身の具体的な経験を通してもう一度語られる。特に大きな存在として描かれるのがFC東京とそのサポーターである。
長友にとってFC東京は、大学時代からプロへの道を開き、自分を成長させてくれた原点だった。11年間の海外生活を経て2021年に復帰した際には、クラブのありがたさを以前以上に実感する。しかし復帰後は、クラブについて「ぬるい」と厳しい言葉を発した一方で、自分自身は期待に見合う結果を残せず、横浜F・マリノス戦では0対8という大敗も経験する。日本代表でもカタールワールドカップ最終予選をめぐって激しい批判を受けており、クラブでも代表でも結果を出せない時期は、本人にとって「暗闇」のような状態だった。
その暗闇の中で光となったのがサポーターだった。大敗した試合でも長友のユニフォームを掲げ、代表で批判されている時期にも応援を続けてくれる人々がいた。その姿から長友は、これまで自分が光になろうとしてきたつもりだった一方で、実際には自分自身が多くの人の光によって支えられていたことを改めて認識する。
FC東京に復帰してからも思うように結果を残せない時期は続くが、アルベル監督の存在も新たな光となる。スタメンを外される悔しさを味わいながらも、アルベルの戦術や選手とのコミュニケーション、日本サッカーそのものをより良くしようとする考え方に触れ、再び戦う意欲を得ていく。また、サッカー人生を支えた多くの関係者、そして海外生活や3度の出産を異なる国で経験しながら支えてくれた家族、とりわけ妻への感謝も語られる。
したがって、本書の冒頭と終盤はほぼ円環のようにつながっている。
光を目指して進む → 努力によって自分自身も光になろうとする → しかし苦境の中で、自分もまた多くの人の光に照らされてきたことを知る → その光を今度は自分が返していこうとする。
「メンタルモンスター」とは、単純に「何があっても落ち込まない人」ではない。批判、敗北、挫折、悔しさを実際に感じながら、それでも言葉や思考、目標、人との関係を利用して自分を立て直し、再び前へ進める状態を作る。その力は生まれつきの才能ではなく、誰でも身につけられる技術だというのが長友の主張である。
そして最終的には、自分だけが強くなることが目的なのではなく、自分を支えてくれた人を照らし返し、自分自身も誰かが前へ進むための光になることが、長友の考える「メンタルモンスター」の到達点として描かれている。