2026-10-09
- はじめに
- 序章 食べ物商売の繁盛と四大名物食
- 第一章 そば屋の誕生と発展
- 第二章 蒲焼き屋の誕生と発展
- 第三章 天ぷら屋の誕生と発展
- 第四章 握り寿司の誕生と発展
- 終わりに
- 参考資料
- 文献一覧
本書は、現在も東京の代表的な食として親しまれている寿司・天ぷら・そば・うなぎが、江戸でどのように誕生し、発展していったのかをたどる江戸食文化史である。
江戸では早くから外食文化が発達し、18世紀初頭には飲食店が7,630軒にも達していた。居酒屋をはじめ、そば屋、うなぎ屋、寿司屋、料理茶屋、茶漬け屋、一膳飯屋、団子屋、汁粉屋、甘酒屋など、多種多様な店が存在していた。そのなかでも、特に江戸っ子から支持され、独自の発展を遂げたのが、そば・うなぎ・天ぷら・握り寿司の四つだった。
著者は、以前『居酒屋の誕生』で酒を軸に江戸の食文化を取り上げたのに対し、本書では「食」そのものを中心に据える。四大名物食を江戸に登場した順に扱い、文献だけでなく絵画資料や川柳なども用いながら、それぞれの成立と相互の関係を描いている。
構成は、序章「食べ物商売の繁盛と四大名物食」に続き、
- そば屋の誕生と発展
- 蒲焼き屋の誕生と発展
- 天ぷら屋の誕生と発展
- 握り寿司の誕生と発展
という順になっている。
調査によって、二八そばという名称の由来、天ぷらそばが生まれた時期、うなぎが江戸で売られ始めた時期、天ぷらと茶漬けの関係、握り寿司成立の背景など、従来十分に明らかでなかった点にも迫っている。
また、「寿司・天ぷら・そば・蒲焼きはすべて屋台から始まったのか」「そば前という言葉はあったのか」「当初はそばよりうどんの方が人気だったのか」「蒲焼き屋では肝吸いを出していたのか」「天ぷら屋台に大根おろしはあったのか」「握り寿司にガリを添える習慣はあったのか」「握り寿司とちらし寿司ではどちらが高価だったのか」といった、現代の常識とは異なる可能性のある問いを提示し、その答えを本文で検証していく形式になっている。
「終わりに」では、著者自身も四大名物食を愛好し、老舗や名店を食べ歩きながら江戸以来の味を楽しんでいることが語られる。本書の執筆では膨大な文献・絵画資料を調査したものの、一冊ですべてを扱うことはできず、なお書き残したテーマが多いという。それでも主要な事項はまとめることができたとして、本書を江戸の食文化を探究するための一冊として位置づけている。
全体として本書は、現在では日本食の定番となった四つの料理を、完成された料理として見るのではなく、江戸という巨大都市の外食文化のなかで生まれ、店・屋台・食材・調理法・食べ方が相互に影響しながら「江戸名物」へ育っていく過程を明らかにしようとするものである。