2026-10-07
『海の地政学――海軍提督が語る歴史と戦略』目次
- 日本の読者へ
- はじめに
- 第一章 太平洋――すべての海洋の母
- 第二章 大西洋――植民地支配の始まり
- 第三章 インド洋――未来の海洋
- 第四章 地中海――ここから海戦は始まった
- 第五章 南シナ海――紛争の火種
- 第六章 カリブ海――過去に閉じ込められて
- 第七章 北極海――可能性と危険
- 第八章 無法者の海――犯罪現場としての海洋
- 第九章 アメリカと海洋――21世紀の海軍戦略
- 謝辞
- 解説
- 参考文献および世界の海洋に関する推奨文献
ここまでの要約
本書は、長年アメリカ海軍に所属し、世界各地の海を実際に航海してきた著者が、**「船乗りとして経験する海」と「国際政治を動かす地政学的な海」**という二つの側面から海洋を描こうとする本である。
「はじめに」では、シェイクスピア『テンペスト』の言葉を手がかりに、著者と海との個人的な関係が語られる。著者は約40年に及ぶ海軍生活のうち、合計11年近くを陸から離れた海上で過ごした。その経験は非常に強烈で、退役後も軍艦に乗り、大海原を進んでいる夢を見るという。
著者は、人間の体の大部分が水で構成され、地球表面も約70%が水に覆われていることを挙げ、人間と海との結びつきそのものにも思いを巡らせる。
海軍では世界各地の海を航行し、航海術や作戦術を身につけ、部下を率いた。その後、フレッチャー・スクールで国際関係学を学んだことで、海を単なる船乗りの活動場所ではなく、国家や国際社会の動きを左右する地政学的空間として捉えるようになった。
著者によれば、過去2000年にわたる国家の盛衰や大規模な政治・軍事活動の多くは、**シーパワー(海上権力)**から大きな影響を受けてきた。この構図は21世紀でも変わっていない。
その例として、
- 南シナ海をめぐる国家間の緊張
- カリブ海での麻薬密輸
- アフリカ沿岸の海賊
- 北大西洋のGIUKギャップをめぐる戦略的対立
などが挙げられる。
したがって本書の中心的な狙いは、単に海戦や海軍の歴史を書くことではない。著者自身が述べるように、
船乗りが実際に経験する海
と
海洋が世界政治に与える戦略的影響
を結びつけることにある。
解説で示された本書の特徴
解説では、原題が Sea Power: The History and Geopolitics of the World Ocean であることが紹介される。
第一章から第七章では、
太平洋 → 大西洋 → インド洋 → 地中海 → 南シナ海 → カリブ海 → 北極海
という「七つの海」が取り上げられる。ただし一般にいう「七つの海」が具体的にどの海を意味するかは、時代や地域によって一定していない。
本書の特徴は、それぞれの海について、
著者自身の航海経験 → その海の歴史 → 現代の地政学
を織り交ぜながら説明していく点にある。
たとえば太平洋については、著者が17歳の士官候補生として航海した経験から始まり、マゼランやクックなどによる西洋諸国の太平洋進出へと話が広がっていく。
また、
- パナマ運河を通過する際、軍艦の操船を現地のパナマ人パイロットに任せる特殊な慣行
- イラン・イラク戦争期のアラビア湾で行ったタンカー護衛任務
など、実際に海軍軍人として現場にいた人物だからこそ書ける具体的な経験も、本書の大きな魅力とされている。
従来のシーパワー論を代表するマハンが、比較的早い段階から教育・研究の道に進んだ人物だったのに対し、本書の著者は世界各地の海で長期間実務を経験している。そのため、本書のシーパワー論には現場感覚に裏打ちされた具体性がある、と解説者は評価している。
そして七つの海を論じた後、第八章では視点を世界全体の海洋へ広げ、
- 海賊
- 漁業
- 環境問題
という三つの地球規模の問題を扱う。
これらはいずれも古くから存在する人間と海との問題だが、技術の発達によって影響範囲が拡大し、現在では一国だけでは解決できない問題になった。
そこで著者が重視するのが国際協力である。
海そのものには本来、明確な境界はない。領海や排他的経済水域などは国家が制度上設定した境界にすぎない。そのため、海賊・漁業・環境といった国境を越える問題については、国家間の協力なしには有効な対応が難しい。
ここまでで見える本書の基本構図
本書はおおむね、
個人的な航海経験
→ 各海域の歴史
→ シーパワーと地政学
→ 現代の国際問題
→ 国際協力と21世紀の海洋戦略
という流れで、「海から世界を見る」ことを試みる作品だといえる。
海は単なる地理的な空間ではなく、歴史・軍事・経済・犯罪・環境・国際政治を結びつける巨大な戦略空間である――というのが、ここまでで提示されている本書の中心的な視点です。